LOGIN室町くんは小さく頷いて、場所を決めて歩き出した。
私は彼が先導するまま、何の疑いもなくその後ろをついて――いくと思いきや。 大粒の雨が容赦なく降り注ぐ中、室町くんはごく自然な動作で私の肩に手を回し、自分の体で雨を遮るようにして歩き始める。 (ちか、近い近い近い……っ!) 突然の接近に、私は内心で盛大に慌てていた。 男性に肩を抱かれたことなんて、初めてな上、まるで私を雨から守るような行動にどう反応したらいいのかも分からず、思考が追い付かない。 「ひぇ」 辛うじて出せた言葉は、悲鳴なのか何なのか分からない情けない声だった。 室町くんから肩を抱かれた状況のまま、公園の敷地を出てすぐの大きくて立派な屋根がついた建物のエントランスへと移動した。 室町くんの体温が私から遠ざかっていき、代わりに激しい雨に冷やされた湿った空気が肌を撫でる。 急に体が冷えるのを感じて、私は小さく身震いをした。思いがけない近さに心臓が飛び出るほど緊張していたから、離れてくれてほっとしているはずなのに。どうしてだか、触れ合っていた場所が急に冷たくなってしまったような、ひどく寂しい気持ちが胸を掠めていく。 そんな戸惑いを誤魔化すように、私は彼の後を追って自動ドアをくぐり、その入口に立ったところで、自分の足がぴたりと止まった。 入った瞬間に耳に届く、クラシックな有線。 フロントには誰もいなくて、代わりに壁一面に設置された、部屋の写真がずらりと載った光るパネル。 (あれ……ここって、もしかして……っ) 異性とこういう場所に来たことがない私でも、さすがにここがどういう場所なのか、一目で理解してしまった。 血の気が引き、心臓がこれまでとは全く違う意味でうるさく暴れ始める。 けれど、私の焦燥を置き去りにしたまま、室町くんは迷いのない足取りで光るパネルの前へと進み、慣れた手つきで画面を操作し始めた。 (え……?) その淀みのない動作に、一瞬、頭の中がフリーズする。私の知っている室町くんは、居酒屋の隅っこで小さくなっていたような、不器用で、ちょっと挙動不審な男の子のはずなのに。 戸惑いと緊張で胸の鼓動が速まる。 でも、パネルからカードキーを受け取った室町くんが、困ったように眉を下げているのを見て、そのバクバクはすっと行き場を失った。 「これで、濡れずに済むね……風邪ひいたら大変だから」 丸い眼鏡の奥の瞳は、どこまでも穏やかだった。 下心がこれっぽっちも見当たらないその笑みに、私は自分の顔がカッと熱くなるのを感じた。 (……私、何を一人で変なこと考えてるんだろう……っ) 彼はただ、ずぶ濡れの私を心配して、一番近くにあったこの場所に避難させてくれただけなのに。 お弁当を作ってくるような世間知らずのくせに、頭の中だけいかがわしい妄想をして。自意識過剰にも程がある。 室町くんは、無害で、誠実で、優しい人。 何かあるわけがない。 まして、私には魅力なんてない。 自分の邪推が恥ずかしくて堪らなくなり、私は真っ赤になった顔を隠すように俯いた。 「うん、ありがとう……」 と、カードキーを持った室町くんの後に付いて小さく歩き出した。※
部屋に入ると、想像していたよりもずっと広くてきれいな空間に圧倒されてしまった。けれど、息をつく間もなく、室町くんが部屋の奥からバスタオルを手に持って戻ってきた。
「先にシャワー浴びて」 その言葉に、私は慌てて手を振る。 「ううん、私はどうでもいいから、室町くんが先に入って! 風邪ひいちゃう」 「俺はいいから。体が冷えるといけないからさ」 穏やかな口調。けれど、その声音にはいつにない力強さがあって、本気で私のことを心配してくれているのだと真っ直ぐに伝わってきた。 これ以上押し問答をするのも申し訳なくて、私は照れを隠すように「……じゃあ、お先にいただきます」とタオルを受け取り、バスルームへと逃げ込んだ。 ――熱いシャワーを浴びて、ようやく人心地がつく。 けれど、脱いだ洋服は雨でぐっしょりと濡れていて、とてもじゃないけれど再び着られる状態ではなかった。仕方なく、備え付けられていた白いバスローブに袖を通し、前を合わせる。紐を適当に結んで外へ出ると、入れ替わりで室町くんがバスルームへと向かった。 残された私は、どういうふうに待っていればいいのか分からず、手持ち無沙汰のまま大きなベッドの端にちょこんと腰掛けた。 ザーッと響いていたシャワーの音が止まり、暫くして、パタンとドアの閉まる音が部屋に響く。 振り返ると、そこには同じようにバスローブを羽織った室町くんが立っていた。 お互いに素肌の上にバスローブを引っ掛けただけの姿。目のやり場に困って、視線が泳いでしまう。けれど、彼の黒髪からぽたぽたと雫が垂れて、せっかくのバスローブを濡らしているのがどうしても気になってしまった。 (あ、拭いてあげなきゃ) 頭より体が先に動いていた。 私はベッドから腰を上げて、自分の肩にかけていたバスタオルを広げると、室町くんの頭をごしごしと包み込むようにして拭き始めていた。 彼に届くようにぐっと腕を上げて、懸命に手を動かす。 「……!」 室町くんが、驚いたように大きく目を見開くのがタオルの隙間から見えた。 丸い眼鏡を外した彼の視線が真っ直ぐに私を射抜いている。至近距離でその強い目元と視線が合わさって、私は自分が何をしてしまっているのかに気づき、青褪めた。 「あ、ご、ごめんなさい! ついくせで、反射的に……っ」 「くせ……?」 室町くんの声が、タオルの下から低く籠もって聞こえる。私は慌てて言い訳をまくし立てた。 「し、施設で私が一番年上だったから、お風呂上がりに小さな子たちの髪をこうやって拭いてあげてて……! あ、でも、し、施設とか、今の室町くんにはどうでもいい情報だよね!? ごめんね、えっと……っ」 恥ずかしさでパニックになり、腕を大急ぎで下ろそうとした、その時だった。 「……胸、見えてる」 室町くんの低い声が、静かな室内に響いた。 「え……?」 間抜けな声を上げて、自分の手元に視線を落とす。 夢中で腕を上げて彼の頭を拭いていたせいで、きつく締めていなかったバスローブの合わせ目が、左右に大きくはだけてしまっていた。 胸の膨らみが、その先端にある色づいた突起まで、丸出しになっている。 「ひゃっ……!?」 悲鳴のような声を上げて、今度こそ赤面した。 頭が沸騰しそうなほどの羞恥に襲われ、慌てて髪から手を下ろして胸元を隠そうとしたけれど――私の両手首は、それよりも早く、室町くんの大きな手によって頭上で押さえ込まれ、逃がさないように掴まれていた。 「あ……室町、くん……?」 掴まれた手首から、男の人の強い力が伝わってくる。 驚いて見上げると、さっきまで目を見開いていたはずの室町くんの瞳は、まるで見たこともないような深い熱を帯びて、じっと私を見下ろしていた。 「不用心だね……」 ぽつり、と呟かれた声は、いつもの弱々しさなんて微塵もなかった。低くて、鼓膜を心地よく震わせる、完全な男の声。 掴まれた手首にじわりと力が込められ、逃げられないようにベッドの上へと押し込まれていく。 「室町くん、あの、からかわないで……っ」 「からかってないよ」 彼は眼鏡のない顔をゆっくりと近付け、私の耳元に唇を寄せた。熱い吐息が肌を擽る。 「こんなつもりじゃなかった」※ ※ ※ やっと家に帰れる、という仕事からの解放感でエレベーターに乗り込んだ。 閉まりかけたドアに体を滑り込ませて入ってきたのは、一緒に当直の仕事を終えたばかりの市川先生だった。「お疲れさま」「お疲れさまです、市川先生」 市川先生は、鏡を見ながら前髪を横に流したりして髪型をセットしている。そんな彼に私は声をかけた。「今から出掛けるんですか?」「小児科の新人ナースの子とね」「……帰って寝た方がいいのでは?」 今夜もまた激務だったはずなのに、遊びに行く元気はどこから湧いてくるのか。むしろ、あの的確に指示を出し、完璧な処置を施していた先生はどこに行ってしまったというのか。 呆れたまま、市川先生を見ていると、彼は鏡越しに私と目を合わせた。「オンとオフは分けないとさ。人生楽しもう」 市川先生は私にウインクをして、またも鏡に視線を戻した。 嫌味のつもりで投げた言葉を、彼は何食わぬ顔で華麗に受け流してしまう。 けれど、オンとオフを分ける、という彼の言葉が、どうしてだか私の胸に深く刺さってしまった。 家に帰っても仕事の疲れがなかなか取れず、心身ともに余裕のない日々が続いている。壱成くんはそんな私を咎めるどころか、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれていた。食事の準備をしてくれるだけではなく、最近はお風呂にまで一緒に入ってくれて、私の髪まで優しく洗ってくれる。(淫キャ、じゃない……) エッチが大好きなところは変わらないけど、私にとっては、これ以上ないほど尽くし好きのお世話好き、最高の恋人だ。 でも、彼に尽くされてばかりの現状に、少しだけ甘え過ぎている自覚もあった。これからは仕事の疲れを言い訳にせず、市川先生の言うようにオンとオフをはっきり分けて、壱成くんの負担を少しでも楽にしてあげたい。私も、彼を癒やしてあげられるような、たくさん尽くせる子になろう――。 そんな私の決意をよそに、市川先生は鏡を見ながらフンフンと鼻歌を歌っている。(先生のその尽きないバイタリティ、少しは分けてほしい……) 静かにエレベーターが開き、私たちは病院のロビーを過ぎて外へと出た。 正面の駐車場ロータリーを見やった瞬間、見慣れた車が目に飛び込んでくる。私はそれを見つけただけで、自然と口元に笑みを浮かべていた。「あ、彼氏迎えに来てるじゃん」 並んで歩いていた市川先生が、
室町くんは気まずそうに自分の頬を指先で掻いた。それから、ひどく不安げに私を見つめて、言葉を紡ぐ。「俺と一緒に住んでくれる?」「……うん」 私が小さく頷くと、彼は心底嬉しそうに、そして私をこれ以上ないほど愛おしそうに見つめてきた。 優しく揺れる柔らかい瞳――。それを見た瞬間、私の胸の奥に、懐かしい温もりが込み上げてくる。 室町くんの目を見るたびに、正体不明だった切なさと懐かしさの理由を、私はようやく思い出した。 彼のその目は、幼い頃に今は亡き両親が、私に惜しみなく向けてくれていた瞳と全く同じ色をしていた。この世界で私を無条件に肯定し、守ってくれる、無償の愛。 もう、老後のための家を買い急ぐ必要なんてない。世界中でたった一人、私をこんなにも必要としてくれる、私の帰る場所が、目の前で私を抱き締めているのだから。 天涯孤独だと思っていた私の手を、彼はもう二度と離さないと誓うように、指を絡めて強く握り締める。 胸の奥が、熱くて、苦しくて――でも、甘くて。 もう、言葉にできないほど溢れている。 室町くんが、責任なんかじゃなくて、ただ「私自身」を欲しがってくれている。 私は顔を少しだけ上向けて、遠慮がちにおねだりをした。「キス、してくれる……?」 室町くんは一瞬だけ愛おしさに耐えるように目を細めた。 次の瞬間、ふわりと優しい熱が私の唇を塞ぐ。 いつもなら、そのまま室町くんの舌が私の口内を抉じ開けるはずだった。けれど、胸の奥から溢れる愛をどうしても伝えたくて、私は震える唇を自ら開き、おずおずと、初めて自分の舌を彼の口内へと伸ばした。「ん……っ」 驚いた室町くんの息が微かに詰まる。 私が彼の舌にそっと自分のそれを絡めると、彼の体が歓喜で熱く跳ね上がるのが分かった。 直後、室町くんはそれまでの全てを解き放つように、猛烈な勢いで私を貪り始めた。 差し出された私の舌を巻き上げ、口内の粘膜をこれでもかと熱く舐め上げていく。彼が動かす舌ピアスの感触が、お互いの甘い唾液と混ざり合いながら、狂おしいほどの快感となって脳を痺れさせた。 キスが深く、激しくなるのと連動して、座ったままの彼の腰の動きが一段とギアを上げる。私の最奥を杭のように何度も何度も激しく突き上げ、パールの突起が内壁をゴリゴリと力強く抉った。「んんぅ――! ん、は、んぅ……っ!」
「室町、くん……」「毎日メッセージを送っても既読無視されてさ……」「傷ついてたの……?」 私は顔を上げて、信じられない思いで彼の顔を見つめた。 室町くんは、今にも溢れそうな涙を、下唇を思いきり噛んで堪えているように見えた。その澄んだ瞳が、今は情けないほどに濡れている。「傷ついてたよ。でも、俺が連絡をやめたら、きっと何事もなかったように過ごすんだと思って、最初の頃から必死にメッセージ送ってたんだ」「でも、それって、マメだからじゃ」「そうだよ、俺は連絡はマメだよ。でも、それって基本的なことでしょ? 付き合っている子に連絡するのって、当たり前のことじゃない?」(付き合っている子……?) 室町くんの口から出た想定外の単語の意味を汲み取れず、私の脳内は一瞬フリーズした。「でも、これまでの俺は、連絡しても返事がない時とか、相手の気持ちが冷めてるって分かった時は、自分から追いかけたことなんて一度もない。だけど、君の時はどうしても関係を断ちたくなかったから既読スルーされても、諦めずにメッセージを送り続けたし、自分からデートにだって誘った。必死だったんだ」 室町くんは私の腰を掴む手にじわりと力を込め、ナカの熱いモノを、まるで「ここにいる」と証明するように切なく蠢かせた。「責任も取らせたくないほど、俺から離れたいの? 家を買うって、そこに俺もいちゃ駄目なの?」 ナカだけで繋がったまま、大粒の涙をぽろぽろと零して私を責め立てる彼を見つめながら、私はずっと胸に引っかかっていた、最大の疑問をようやく口にした。「……私たち、付き合ってるの……?」「…………は?」 今度は、室町くんが宇宙猫になる番だった。 さっきまで世界の終わりみたいな顔で私に縋りついていたのに、目が点になって口を半開きにし、涙を溜めたまま固まっている。「え、……何言ってるの……? 付き合って、ない、わけないじゃん……。じゃあ、俺が今まで君にしてきたこと、何だと思ってたの……?」「責任を取ってくれている延長線……」 私の言葉を聞いた瞬間、室町くんは本当に唖然とした顔になった。 しばらく口をパクパクさせてから、ようやく声を絞り出した。「あのさ、送迎も、料理を作るのも、全部、君にしかしてない」「え……?」「仕事終わりの送迎をしてたのは、少しでも君に会いたかったから。料理を作ってたのは
その歪んだ言葉の恐ろしさにゾクりとしながらも、すでにナカでイくことを覚えてしまった私の体は、動かされるたびに彼を締め付けて、すぐにまた達してしまう。その最中に、また奥へと熱いものがドクドクと出される感覚が伝わってきた。 ようやくモノが抜かれた一瞬の隙を突いて、私は逃げようとベッドから這い出そうとした。けれど、ろくに力が入らない体では、すぐに足首を掴まれて簡単に捕まってしまう。 お尻を向けた状態で四つん這いのままベッドの縁まで引き戻され、背後から無慈悲に、再びその凶悪なモノで貫かれた。「あぐっ……! う、あ……」 両手を床についた不安定な姿勢のまま、後ろから激しく突き上げられる。あまりの衝撃の大きさにきつそうに喘いでいると、室町くんは私の体を背後から力強く抱き上げ、もう一度ベッドの中央へと運んだ。 私を俯せの姿勢で行き倒れのように寝かせると、その上から覆い被さるようにして、再び背後から突き進んでくる。 せめてもの抵抗の意味で、私は漏れそうになる淫らな声を我慢するために、枕カバーを口で噛み締めた。 けれど、そんな涙ぐましい抵抗もすぐに彼に見つかってしまう。「これ、噛まないで」 室町くんの手によって、噛んでいた枕を取り上げられた。 逃げ場を奪われた私の上に、室町くんはぴったりと重なったまま、なおも激しく腰を動かし続ける。背中に押し当てられた彼の胸板から、ドクドクと激しい鼓動が伝わってくる。密着した肌の熱さ、混ざり合うお互いの体温。 この熱から離れなきゃいけない。分かっているのに、私の頭は室町くんにめちゃくちゃに貪られながら、致命的な勘違いを犯し続けていた。 彼にこんなに求められて、乱されるのは、あの日に口にした約束のせいなんかじゃなくて、私を好きなんじゃないかって――そんなこと、絶対にないのに。 私が室町くんの呪縛を解いてあげなきゃいけないのに、熱に浮かされた頭は、その熱から離れたくないって思ってしまってる。「も、おわって、おわ、……っ」「責任取るってば」 耳元で、低く粘りつくような声が鼓膜を震わせる。最奥を激しく叩きつけられながら、私は涙で濡れた顔をシーツに擦りつけ、必死に声を絞り出した。「もぉ、とらなくていいっ……!」 その言葉があなたを縛っていたなら、もう取らなくていい。だからお願い、解放されて――。 私の必死の訴えに、室町
穏やかな声だけど、温度はない。 彼は私の衣服の合わせ目に手をかけると、驚くほど手荒で強引な手つきで、抵抗する間もなく簡単に引き剥がしていった。下着までもが無造作に床へと転がされ、私はあっという間に、素っ裸にされてしまう。 恐怖に身を縮め、本能的に脚を閉じようとした。けれど、室町くんは私の両脚を掴むと、左右へ無理やり割り開いた。「室町くん、だめ、今日、は……ひゃあうっ!?」 拒絶の言葉は、私の割れ目に押し当てられた、彼の熱い舌によって悲鳴へと変えられた。 躊躇うことなく秘部へと顔を埋めた室町くんは、じっとりと粘膜を舐め上げ――いつもなら絶対に優しく触れるだけだった、一番敏感な突起へと遠慮なく指先をかけた。「あ、や……っ、そこ、はぁっ!」 彼の手指が、小刻みに震える私のそこを割り広げ、包皮をきついくらいにクッと引き剥がす。剥き出しにされた、まだ愛液に濡れきっていない未熟なクリトリス。空気に触れただけでヒィ、と体が跳ねるのに、室町くんはそこに狙いを定めて、激しく舌を突き当ててきた。 肉厚な舌先が、露出した芯をゴリッと強烈に押し擦る。それと同時に、口内の硬質な舌ピアスがコリコリと金属の冷たさでそこを挟み込み、信じられないほどの強い力で吸い上げられた。「あ、はぁぁあっ……! や、やだ、冷た、やめてぇ……っ!」 未体験の快感の衝撃が走り、本能的に逃げようと、爪先に力を入れて体を突っぱねようとする。けれど、私の両足首は室町くんの大きな手によって掴まれ、上から押し潰されていた。 力を入れて抵抗することも、快感を逃がすことも許されない。弱りきった体は、彼の生々しい音を立てる愛撫に、文字通り骨抜きにされていく。 拒絶しているはずなのに、無理やり晒され、逃げ道を塞がれた状態で施される調教は、私のナカを恐ろしいほどの凶悪さで濡らしていく。(うそ、室町くん、こんなの……しらない……っ) 今までの彼が、どれほど私に手加減してくれていたかを思い知らされる。本気になった彼の舌は、私の理性を無残に置き去りにして、瞬く間に肉体をドロドロに溶かしていった。シーツを汚すほどの熱い蜜が、堰を切ったようにトポトポと溢れ、彼の口内へと吸い込まれていく。「うそ……どうして……っ」 自分の意志に反して淫らに濡れそぼり、開発されていく体に絶望していると、室町くんがゆっくりと顔を上げ
その言葉が、私の胸を鋭く突き刺した。 私は彼の言葉を、きっぱりと遮った。「生理、来たの」「え?」 室町くんは一瞬、呆気に取られたように目を見開いた。「そうなんだ。……お腹、温める? 何か、薬とか、いる?」 すぐにいつもの誠実な調子を取り戻し、私の体調を気遣おうとする彼に向かって、私は小さく首を振った。「もう終わったから、大丈夫」 これ以上、この優しさに甘えてはいけない。 私は彼を見つめ、ずっと胸の奥底に溜め込んでいた言葉を、静かに切り出した。「生理は無事に来たし、妊娠もしてなかった。……だから、もう大丈夫だよ、室町くん」「……何が?」 室町くんは眼鏡のブリッジを指先で押し上げながら、不思議そうに首を傾げた。「え、あ……だから、その……」 思わぬ反応に、私の方が言葉に詰まってしまう。 これで肩の荷が下りるはずの彼が、どうしてそんなに怪訝そうな顔をしているのか分からなかった。「えっと。君は過労で倒れたばかりで体調も良くないと思うし、俺、看病続けるけど……」 室町くんは私の動揺を気にするふうでもなく、淡々とした、けれど絶対に譲らない穏やかな声音で言葉を重ねてくる。 室町くんの様子に、私の言葉の意味が届いていないと気づいた。「それにさっきの続きだけど。俺の仕事場から君の病院って近いから、俺と一緒に住もう」 遮ったはずの言葉を、彼は何事もなかったかのように、もう一度真っ直ぐに私にぶつけてきた。「時間に融通利くから、君の食事も作れるし、いつだって送迎できるよ」 首を傾げたまま、穏やかに微笑む彼――それを見た私の胸の奥に溜まっていた切なさと罪悪感が爆発した。 私はベッドの上で気力を振り絞って体を起こした。「責任取らなくていいのっ……!」 室町くんの顔を見ていられず、私は俯いたまま叫んだ。「私は妊娠してなかった。……だからもう、責任っていう言葉に、無理して縛られないで。これ以上、室町くんに優しくしてもらうのは申し訳ないから……っ」 涙が視界を滲ませていく。 でも、私が泣くのは違うと思った。誠実な彼を縛っていた私には泣く権利なんてない。 下唇を思いきり噛んで、痛みで涙を堪える。 私は彼を解放するための最後の言葉を、静かに、きっぱりと告げた。「私と会うのは、今日で終わりにしよう」 狭い1DKの部屋に、重く冷たい静寂がゆ